前回のブログでヘリの速度についてお話ししたが、今回は低速度域でのお話である。
ヘリコプタ―の最大の利点であり特徴なのが、空中で停止しても落ちないということ。これは飛行機には絶対出来ない動きであり、この特性があるからこそヘリは生き残ってきたと言っても過言ではないはずだ。ところが、この空中で停止するというのもなかなか厄介なハナシなのである。
ヘリコプタ―というのもまったくオカシな乗りもので、速度を増してくとどんどん必要なパワーが増えていくのは前回述べた通りだが、反対にまったく進んでいない状態で浮いているのでもそれなりのパワーが必要になるというよくわからない特性がある。
これは一般の方にはなかなか理解されづらいかもしれない。実際、クルマとかバイクだとアクセルを踏まずにじっとしている時が最もパワーを使っていない状態になる。というか大抵の乗り物がそうだろう。
じゃあ一体ヘリが一番少ないパワーで飛べるのはどんな時なんだよ!という事になるが、おおむね時速100km~150kmくらいが一番少ないパワーで飛べる。けっこう速い速度ではないだろうか?
下のグラフは一定高度を保つことを前提に、対気速度と必要パワーの相関を表したものなのだが、大抵のヘリはこのような不思議な形をしている。グラフの一番左側は、速度ゼロすなわちホバリング状態だ。
このグラフで青線が一番下まで下がったところがすなわち一番必要パワーが少ない速度であり、専門用語でVyと呼ばれる。このVyという速度はヘリの機種によって若干異なり、丸っこい機体だと時速110km程度、流線形の機体だと時速130~150kmくらいの間で定められている。
このVyは必要パワーが最も少ない速度であるとともに、最も燃料消費が少ない速度でもあるので、順番待ちで上空待機するときなんかはよく使ったりする。
こういった特性なので、広い場所からヘリコプタ―が離陸するときはパワーをあまり必要としない。なにしろホバリング状態から機体が落ちない程度にパワーを足しながら速度をつけていくだけで必要パワーはどんどん少なくなっていき、余ったパワーが結果的に加速力と上昇力になって機体がふわりと浮き上がっていくからだ。
地上でエンジン吹かして猛加速しながら離陸していく飛行機と大きく違うところと言える。
逆に言えば、ドクターヘリとかがやるホバリング状態のまま垂直に上昇していく離陸方法は、けっこうエンジン的にムリをしていることも少なくない。私もたまにやる機会があるが、パワーに余裕のないヘリとかだとコレがもう冗談抜きでキツイ。
さらに別の例を挙げると、空気の薄い高山での仕事にパワーのないヘリで出かけた場合、いい速度で飛ぶことは余裕で出来るんだけど空中で停止はできない、といったことも普通に起こる。それほど低速飛行にはパワーが必要なのだ。
なんで速度が無いときにそんなにパワーを食うのかという事についてだが、コレは様々な要因が重なっていて説明が難しい。
非常に粗削りでイイカゲンな説明になってしまうが、ホバリングおよび低速状態のヘリというのは自分自身のローターが巻き起こす局所的な下降気流の中にいるようなものだし、自分の真上からしかローターに空気が入ってこないので空力的にとてつもなく不利なのである。
さらに、ヘリが前進速度をつけていくと転移揚力(トランスレーショナル・リフト)という効果が得られるのだが、低速状態ではこの効果が無いという事も大きい。
ヘリコプタ―が停止状態からある程度前進速度をつけていくと、自分の前方からローターに向かってドンドンたくさんの空気が取り込まれるようになってくるのでローターの生み出す揚力がある時点で飛躍的にアップする。
これが転移揚力と呼ばれるもので、乗っていてすぐにそれと分かるくらいのポンッという上昇力を感じることが出来る。
速度(対気速度)が少ない状態ではこの転移揚力は生み出されないため、結局その分までパワーを吹かして機体を浮き上がらせておくしかないのである。
このVyより低速でパワーが必要な領域のことをバックサイド領域と呼び、パワーが必要だわ操縦は難しいわで、できればお近づきになりたくない厄介な領域なのである。
しかし、冒頭でも書いたようにヘリの仕事なんてこの低速領域を使わないことにはオハナシにならないものばかりというのもまた事実であり、このへんもヘリの泣き所だったりする。
まあしかし、自分で書いててナンだが本当にヘリコプタ―ってよく分からない乗り物だな・・・。
ともあれ、今回もお付き合いいただき、ありがとうございました。