ケース・クローズ!

今日もエンジン快調!

エンジン性能限界  ヘリコプターのあれこれ

 

今までこのブログで、このヘリのエンジン性能がどうたらこうたらとさんざん書いてきたが、実際のところエンジン性能および機体性能はどういったもので制限されるのか。

今回はそんなお話です。

 

タービンエンジン(ターボシャフトエンジン)を搭載するヘリコプタ―の場合、出力を見るための計器は大きく3つある。パワーを上げていくとそれぞれの計器数値が上昇していき、3つのうちどれかが限界に達した時点で頭打ちすなわちフルパワーとなる。

まずはその3つの計器それぞれについて解説してみたい。

 

 

・エンジン回転計

タービンエンジンの中で最も速く回転しているコンプレッサータービンシャフトの回転数を計測しているもの。コンプレッサータービンとはエンジンの燃焼ガスを回転力に変え、空気を吸引および圧縮するコンプレッサーを回す力を作り出すタービンであり、ジェットエンジンを安定運転させるうえで要となるもの。

エンジンの回転数を計っているということで、クルマでいうタコメーターに近いともいえる。

コンプレッサータービンは1分間に50000回転以上という凄まじい超高速で回転しているうえに、燃焼ガスによる高温に常に晒されている。そんなとんでもなく過酷な状態で回転しているため、規定の回転数を超えてしまえば過度な遠心力と熱による負荷でタービン自体が損傷する可能性がある。

そんな危険からエンジン内部を保護するために、エンジン回転限界は設けられている。

 

・燃焼ガス温度計

エンジン内部にある燃焼室から吐き出されるガス温度を監視するための計器。機体によってT4計とかTOT計とかMGT計など様々な呼び方がある。

燃焼ガスは燃焼室で作られるものの、燃焼室そのものは温度が高すぎて測定できないので燃焼室より後ろ側の温度を計測しているのだが、それでも700℃を優に超える高温になることも。燃焼室のすぐ後ろにはコンプレッサータービンがあり、このタービンを過度な熱から保護するためにこの計器はある。

前述のエンジン回転限界と同じく、規定数値を超えてしまうとタービン部分に過大な負荷がかかり、タービンの損傷や変形(クリープと呼ばれる)を引き起こす可能性がある。また、飛行中のエンジン限界とは関係ないものの、エンジンスタート時はこの燃焼ガス温度が一気に上昇するため、パイロットが特に気を付けて監視する計器となる。

 

・トルク計

トランスミッションにかかるトルクを表す計器で、要はエンジンが機体のトランスミッションに対してどれだけ強いパワーをぶつけているかを計測するもの。これはどちらかというとエンジン限界を表すものではなく機体構造の限界を表している。

タービンエンジンはレシプロエンジンに比べると非常にパワーが強いため、フルパワーまで使おうと思うとエンジン限界が来るより先に機体のトランスミッションの方が負荷に耐えられなくなる場合があるのだ。そうなることを防止するためにも、この計器には注意を払う必要がある。

 

基本的には最大出力を100%としたパーセンテージで表されるのだが、最大が83%というよくわからないヘリもあったりする。また、ヘリコプターはメインローターテイルローターでそれぞれ出力を分けあって飛んでいる関係上、速度によって限界数値が変化するものも多い。(前進飛行中はあまりテイルローターがパワーを使わないため。)

 

上の画像はAS355型というヘリの計器。左上がエンジン回転計、右上がトルク計、右下が燃焼ガス温度計となる。

 

もちろん、開発段階でエンジンにしても機体構造にしても余裕を見て限界値が定められているので、限界値を超えたからと言ってすぐに機体がぶっ壊れたりエンジンが止まったりということはない。(整備士さんからは半殺しの目に遭うけど

数値も実は一律ではなく、連続して使っていい最大値5分以内なら使っていい最大値5秒以内だけ使っていい最大値など何段階にも制限があり、場合によっては100%を超える数値が設定されていることもある。上の画像で分かるように、計器内部が緑色とか黄色とかでさまざまに色分けされているのもこれが理由である。

 

さらには、エンジンが2つ以上の多発機の場合は、通常状態とひとつのエンジン故障時とでは限界値が変化する。これは緊急出力とも呼ばれ、片エンジン故障という非常事態のみ最大値が引き上げられるという、いわば最後の頼みの綱だ。

これからも分かるように、普段のエンジン出力限界というのは結構余裕を持った数値なのである。

 

では実際の飛行ではどんな感じなのか。

 

ヘリコプターの種類にもよるのだが、地上に近い低高度で飛んでいる時は基本的にトルク限界が最初に来る。この状態ではエンジンそのものはまだ限界値まで余裕を残している状況なため、ある意味好ましいともいえる

しかし、高度をどんどん上げていくと周囲の空気が薄くなってくるので、同じパワーを絞り出すためにはよりたくさんコンプレッサーを回して空気を圧縮しなくてはならない。そうなると今度はエンジン回転数が真っ先に限界値に達するようになってくる。それに、空気が薄いということはメインローターが生み出す揚力もガタ落ちとなるため、ますますエンジンへの要求は厳しくなる。この辺になってくるとなかなかクリティカルな状況だ。

残る燃焼ガス温度に関しては、気温が高い夏の日には最初に限界値に来ることもあるが、他の2つに比べるとあまり限界値にくることは少ないように感じる。というか、涼しい日に飛んで最初に燃焼ガス温度が限界に来るようであれば、それはエンジン自体に何か問題があるのを疑うところだと思う。

 

パイロットにとってみると、限界数値はもちろん覚えなくてはいけない大切なものなのだが、なにしろ数が多いので双発機ともなると非常に難儀するところ。計器が色分けされているのでぱっと見でもわかりやすいのだが、ふとしたタイミングで先輩とかに質問されるともう頭真っ白になってしまう笑。

 

これを言ってしまってはしょうがないが、一番ラクなのはそもそも最大限界値付近までパワーを使わないこと。これに尽きる。

この考えには賛否両論あると思うが、個人的に一番理想的なのは離陸時や緊急時を除いて、極力最大出力を使わないで済むような飛行を心がけることだと思う。もちろん必要がないのにノロノロ飛んでいてはスポンサーや乗客に失礼になるが、いっつも限界近くまで使って飛んでいては機体の疲弊具合も変わってくる。なにより、まだ使えるパワーを残しているという事実は、精神的にも好ましいものだ。

まあ、いつもそれが出来たら苦労しないんですけどね・・・。

 

 

今回は以上になります。ありがとうございました。