ケース・クローズ!

今日もエンジン快調!

テイルローター?フェネストロン?  ヘリコプターのあれこれ

このブログで何度も申し上げていることではあるが、本当にヘリコプターというのはオカシな乗り物である。そのせいか、一般の方々とか子どもたちにヘリについての質問をされると、なかなか答えるのが難しい。

 

そんな中でとくに説明が難しいのがテイルローターに関する質問だったりする。たしかに、ヘリコプターというシロモノを見たときに多くの人が思うであろう。『あのシッポにくっついているちっちゃいプロペラは何なのだろう』と。

冒頭はまずテイルローターの役目についてお話ししたい。今回もできるだけ専門用語を使わずに説明してみようと思う。

 

 

テイルローターの役目をカンタンで言うと、メインローターを回す際の反動(作用反作用)を打ち消しているのである。

 

例えば、あなたがとても重い荷物を両手で抱えている状況を想像していただきたい。その状態から姿勢をできるだけ変えずに、荷物を勢いよく前方へ放り出すとどうなるか。おそらくは反動で後ろにのけ反るか、下手をすると尻餅をついてしまうだろう。

 

これと同じことがヘリの機体にも起きるのである。ヘリは頭上のメインローターをぶん回して飛行しているが、このメインローター直径10mを優に超えるような大きさがあり、当然かなりの重さもある。そんな重いものをエンジンの力でぐるぐる回そうと思うと、その反動を受けて機体そのものがローターと逆向きにぐるぐる回ってしまうのだ。

これを防止するために機体の後方に横向きになったテイルローターを取り付け、その推力でもって機体の姿勢を維持しているのである。また、このテイルローターの推力を調整することで機体の向きを変えることだってできるのだから便利なものだ。

 

つまるところ、ヘリコプターにとってテイルローターは生命線とも言える。コレが無くてはヘリコプターはマトモに姿勢を保てずクルクル回って落ちるしかない。

 

だが、そんな超重要な部品であるテイルローターは、同時に厄介な存在でもある。機体の横に向かってくっついているから空気抵抗にもなるし、外部から物がぶつかったときなどに損傷しやすい。

それに地上において、不慣れな人が高速回転しているテイルローター付近に立ち入ってしまうと、場合によっては目を覆いたくなるような大惨事になることだって有り得る。実際、テイルローターと人が接触して亡くなるという痛ましい事故は、日本を含めた世界中で起きているのだ。

 

そんな中で、フランスのとあるヘリ会社が思いついたアイデア。それは、ヘリの尾翼(垂直安定板)の中に直接テイルローターを埋め込んじゃえ!というものだった。

そんなわけで開発されたのがフェネストロンと呼ばれる独特のテイルシステムであり、このブログで以前紹介したAS365型でも採用されている。

 

as365.hatenadiary.com

フェネストロンというのはこのフランスメーカー独特の呼び方であり、他メーカーではファンテイルとかダクトファンと呼ばれることがある。現在では特許も切れており、このフランスメーカー製以外のヘリでもたまに目にできる。

 

写真のようにローター回転面が尾翼内部に完全に埋め込まれる形となっており、直接中に手を入れたりとかしなければ人と接触する可能性はない。

ダクト、というだけあってなんとなく換気扇に見えるのは私だけではないだろう。クラッシュバンティクー2の世代の方なら、泡吹きロボットを投げつけたくなるかもしれない。

このタイプの特徴は以下の通り。

 

・前述のように人とテイルローター接触確率を極端に低くでき、安全性の向上が見込める。

 

テイルローターの回転面が機体前方から見て露出していないため、抵抗が少なく高速性に寄与する。また、高速飛行中の振動も少ない傾向にある。

 

・機体前方からの異物には高い防護性が期待できる。そのかわり、吸い込む力が強いので地上付近や低速状態では横から異物を吸い込みやすい。

 

・万が一テイルローターシステムの破断やダメージがあったとしても、回転面が覆われているのでブレードが飛散しにくい。

 

・ノーマルタイプに比べてホバリング時にパワーを食う傾向にある。そういった理由からか、同社が開発したヘリの中でもホバリング性能や高高度性能を重視した機体はノーマルタイプのテイルローターが採用されているケースも。

 

・構造的に複雑になり、テイルまわりの重量が増加する。また、スタビライザー(垂直尾翼)がデカくなるので横風に煽られやすい。

 

こんなところだろう。欠点もいくつかあるのだがそれを補って利点も確実にあり、同社の新型機にも未だに採用され続けているところを見るに、やはり画期的なものだったと言わざるを得ない。

 

その他、こいつらは直径が小さいために回転数がノーマルタイプより格段に速く、遠くからでも分かる独特の甲高い音を立てるのが特徴といえる。これはもう本当にぶっ壊したくなるほどやかましいため、最近開発されたものになると様々な騒音低減策が施されている。上の写真を見ると一枚一枚の羽根が不等間隔に並んでいるのがお分かりいただけると思うが、これも騒音低減のためである。

また、より新型のヘリだと回転翼とは別に固定のフィンをつけて騒音低減を図っているものもある。最新型のH160型など、フェネストロンなのにびっくりするほど静かなので、やはり技術の進歩というものは偉大だなと思わされる。

 

このフェネストロン以外にも、テイルローターに創意工夫を凝らしたものはいくつかあるのだが、それはまたの機会にでも。

 

 

今回もお付き合いいただき、ありがとうございました。