ケース・クローズ!

今日もエンジン快調!

エアバス AS365型ドーファン  ヘリコプター紹介

あらゆる用途に対応する俊足のドルフィン

 

今回は官公庁、民間どちらでも人気の中型ヘリコプター、AS365型ドーファンの紹介。このブログで以前紹介したH125型やAS350型と同じ製造元のヘリである。

 

全長が14m以内に収まる比較的コンパクトな機体ながら最大離陸重量が4トンを超える規模を持つ、T類と呼ばれる種類のヘリコプタ―。そのため、双発タービンヘリの免許に加えてこの機体個別の免許も必要となる。エンジン火災用の消火器系統をはじめとして機体の主要部品が複数系統となっており、心臓部はタービンエンジンの双発である。

もともと、これよりちょっと小さくてエンジンが1つのSA360というヘリ(この機体はぜんっぜん売れなかったのだが)があったのだが、これをもとに各部のつくりを見直したうえで700馬力クラスのエンジンを2つ搭載し、双発ヘリコプターとして昇華させたのがこのAS365である。

さすが、世界有数のヘリメーカーだけあって二度は外さない。結果的にこのAS365は成功を収め、多数の国で使われるヘリとなった。

日本では消防ヘリ、県警ヘリ、報道ヘリでの活躍が主だが、かつては韓国の某テクノロジー企業の会長機として使われていたこともあり、あらゆる用途に対応することができる。

 

ペットネームのドーファンとはフランス語でイルカという意味で、イルカと表現されるとおりの流線形な機体は高速性に寄与する。形だけにとどまらず、引き込み式の車輪、フェネストロン(テイルローターが尾翼に埋め込まれている形のもの)といった高速性に有利な条件を備えており、当然130kt巡行なんて朝飯前。さらにフランス製ヘリお得意の、3時間以上飛んでいられるという長い航続時間も持ち合わせている。

このヘリの初飛行は1970年代とけっこう昔なのだが、今日においてもここまでの高速性と航続距離をもつ中型機というのは少なく、このへんが今も根強く使われる理由なのではないかと思う。

もうさすがに古くなってきて新型機への置き換えも進んでいるが、地方の報道ヘリとか県警ヘリとかはまだまだ多くの数が残っている。特に東北とか北海道みたいなバカ広い地方では航続距離も求められるため、この機体でないとなかなか不安な場面もあったりするし、現に北海道、東北の民放ヘリは今もこの機体が大半を占めている。

 

全体的に丸っこいシルエットのAS350に比べるとシャープな印象の外見ながら機体構造はAS350系統と似ており、メインローター付け根のスターフレックスなんかもほぼ同じ。設計が古い機体なので燃料系統とか電気系統とかは少々クセがあるが、それでも並み居る中型機の中では比較的勉強はとっつきやすい方なのではないかと思う。

 

ほかに外見で目を引くものといえば、巨大な尾翼と大径のフェネストロンだろう。さすがに最大離陸重量4トン超えという事もあってテイルローター推力も大きなものが必要になるらしく、それに伴って尾翼も大きくなっている。ちなみにこの大剣みたいにでかい尾翼は巡航状態では有利だし何よりカッコイイのだが、横風のときは煽られまくってあまり乗り心地は良くない笑。

 

 

乗ってみた感じとしては、同じメーカーというだけあってAS350型の安定感を増大させたような印象。派手なパワーがあるわけでもないし、14m未満という大きさの割にはちょっと鈍重な感じを受けるものの、そのほどよいダルさが操縦しやすくて好きだったりする。

それに、中型以上のヘリはホバリング中にノーズアップがきつくなる傾向があるが、この機体はそれがあまり無くて前方の見通しがよく、ホバリングから離陸、着陸までがとてもやりやすい。

少々古いタイプながらオートパイロットも一通り揃っており、東北や北海道のような広大な土地で飛んでもさほど疲れないのは嬉しいポイントである。

 

 

ただ困るのは、AS350と同じようにホバリング中、水平飛行中問わずにやたら右に傾くことだ。オートパイロットの恩恵もあってAS350ほどフラフラはしないのだが、他の機体に乗ったあとにこいつに乗ると、だいたい操縦桿の右当てが足りなくてヘナチョコな離陸になることが多い。ヘリはホバリング中、テイルローターの横推力を相殺するために多少どちらかに傾くものなのだが、この機体は非常に顕著に感じてしまう。

 

あとの難点は、客席の天井が低くて圧迫感があり、後ろに乗った時の居住性がお世辞にも良いとは言えないことか。客席は大人8人がゆったり座れるくらいの面積はあるものの、後席はとても天井が低くて大人であれば頭が着いてしまうほど。

もちろん小型ヘリに比べれば広いには広いんだけど、他の中型機と比べてしまうと一歩譲るような感じがするのも正直なところだ。

 

そんなこんなでちょっとした難点はあるものの、仕事で使う身としてはとても扱いやすくて良いヘリである。古いヘリとはいえ、今後もしばらくは活躍を続けて欲しいものだ。

 

余談だが、ガキの頃にこれの模型を持っていた関係で、私が生まれてはじめて名前を覚えたヘリコプターはこのAS365型である。もっともその頃は、10数年後に自分が実機に乗れるなんてまったく思っていなかったが・・・。

オートパイロット  ヘリコプターのあれこれ

オートパイロット(自動操縦)という言葉を聞いたことはおありでしょうか?

 

飛行機を題材にした映画、ドラマなどで操縦席が映されるシーンがあると、操縦士がオートパイロットをオンにして飛んでいる場面を見ることがある。そういったことから、航空業界ではない一般の方でも、この「オートパイロット」という単語を聞いたことのある方は多いと思う。

 

私は飛行機のシステムについては無知なので仕組みを説明することはできないが、昨今はヘリコプターのほうにも様々な機能のオートパイロットが搭載されおり、それらはパイロットのワークロード軽減に大きく貢献している。今回はそんなヘリのオートパイロットについてざっくり紹介したい。

 

小型ヘリは別として、昨今の中型以上のヘリともなるとオートパイロット標準装備の機体が多い。オートパイロットといっても色々な機能があるので、その中でも主な機能を3つに分けて簡単な解説をしてみたいと思う。

 

・安定性増大機能

 

SAS機能(Stability Augmentation System)と呼ばれる機能で、その名が示す通り機体全体の安定性を自動的に高めてくれる便利なものである。パイロットは単にサスと呼ぶ。操縦桿から各操作部に行く途中にアクチュエーターと呼ばれるものが付いており、これらが細かい修正操作をつくり出すことによって機体の細かい動揺を安定させるのである。機体の動きは、加速度計や角速度計といった機体についているセンサー類で感知する。

一定の機体姿勢を維持させる力はないが、外乱による動きを減少させて最終的に止めるように作用し、イメージとしては低反発まくらに機体をムギュっと押し付けたような動きになる。

 

一般的にイメージされるであろうオートパイロットと違い、こちらはヘリが離陸する前からすでに働いていて、とくにホバリング中や低速飛行中の不安定な場面では大きな恩恵が得られる。

大きなヘリポートなどでヘリコプターをたくさん目にする機会がある場合、大きなヘリは小さいヘリほどフラフラしていないように見えたとしたら、それはこのSAS機能によるところが大きい。(まあ、パイロットが上手ければ別なんですけど. . . ↓

 

・姿勢保持機能

 

機体についている各センサーの情報を基に、ヘリに同じ姿勢を維持させようとする機能。ヘリのメーカーによってASEモードとかATTモードとかの呼び方がある。こちらは機体の姿勢をコンピューターが記憶し、それを保つようにコンピューターがアクチュエーターを介して操縦桿を修正するもので、トリムと呼ぶパイロットもいる。この基準となる姿勢はパイロットがいつでもすぐに変えられる。

 

ヘリは不安定な乗り物なので、通常はパイロットが手を離すと操縦桿はコテンと倒れてしまうが、姿勢保持がアクティブになっていれば操縦桿が固定される(アンカリング)ので、パイロットは操縦桿を持つ手を離すことができる。長距離を飛ぶ場合、この操縦桿を離せるか否かということがなかなか大きい疲労の差となってパイロットにのしかかってくる。

あくまでも姿勢を維持するだけで特定の高度や速度を維持はしてくれないが、上空で機体の姿勢とパワーがうまく釣り合えば、ずっと一定高度と一定速度での飛行が可能になる。

 

カップリング機能

 

機体のほうで設定する数値とオートパイロットを同期させる機能。わかりやすく説明するとパイロットがコックピット上で設定した高度、速度、その他もろもろの数値を機体に守らせようとする働きをするもの。パイロットはカプラーとかFDとか呼んだりする。

おそらく一般的にイメージされるオートパイロットはコレであろう。

機能の一部を紹介すると、

・設定した高度まで上昇した後、自動的に水平飛行をする

・設定した針路へ旋回、維持する。

・着陸用の無線電波を拾って自動的に滑走路へアプローチする。

・操縦桿を倒さずともスイッチ操作だけで加減速ができる。

といったところだ。大型機や新しい機体とかだと更にいろいろなモードが用意されている。

これらの機能を場面に応じて組み合わせることで、ヘリは連続的な自動飛行が可能となる。これらをコックピットであれこれ設定している時の操縦士は、パイロットというよりさながら機器のオペレーターである。

前述の2つの機能とは異なり、カプラー機能はヘリが離陸後にはじめてアクティブにすることができる。というのも、ヘリは低速状態だとものすごく不安定なので、一部のモードを除いて各機能は速度が一定以上にならないとオンにできないようになっている。もっとも、どれくらいの高度まで上昇するとか、離陸後どの方位に向かって飛ぶかということについては地上にいるうちからあらかじめ設定できる。

 

主な機能としてはこんなところで、上で紹介したもの以外にも、旋回中の横滑り修正やパワー増減に応じてペダルを自動的に動かすなど、細かい機能もある。また、機種によってそれぞれの機能に若干の性能差(反応速度や精度)もあり、新しい機体になるほど性能も良い傾向がある。

 

もっとも、オートパイロットとて万能ではない。パイロットがオートパイロットに頼り過ぎて別の事に集中してしまうのはとても危険と言える。

 

怖いのはモードを間違って入れてしまったり、モードが解除されていることに気付かないで飛び続けてしまうことだ。それに、オートパイロットだって機械なのだから故障だって有り得る。特に、高度保持やルート保持のモードは怖い。

例えば、高度保持モードが入っていると勘違いをしたパイロットが操縦桿から手を放し、他の作業に気を取られていたらどうなるか。パワーが足りずにゆっくり高度が下がっていったとして、パイロットが気付くのが遅れたら大きな事故につながる恐れもある。

上記のようなことを防止するためにも、各モードが正確に作動しているか常に確認し続けるというのもまた、操縦士の大事な役目だったりする。まして、民間ヘリは一人操縦が基本だから尚更と言える。

 

個人的にオートパイロットは機体の機能というより、もうひとりの操縦士みたいなものだと考えている。要は、操縦桿を一定の位置で保持してもらったり、高度速度をキープしてもらったりと、本来は操縦士自らがやらなくてはいけないことをお任せしているような状態だと思うからだ。

どれだけ優秀なオートパイロットが装備されているとしても、そのもう一人の操縦士たるオートパイロットと意思疎通がマトモに取れていないようでは、安全もへったくれもあったもんじゃない。

つまるところ、結局最後に安全性を担保するのは操縦士に他ならないのである。

今回はすこし堅苦しくなりましたが、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

ヘリコプターの脚  ヘリコプターのあれこれ

旅客機の離着陸、というのは見ていて非常にカッコイイ。

 

私は特に、着陸する瞬間にタイヤから白煙が上がる瞬間がとても好きだったりする。まったく、100トン以上の重さが地面につく衝撃を受け止める、あの降着装置の頑丈さには感心することしきりだ。そんな飛行機は、離着陸の際に滑走をする必要がある為、小型機から大型機に至るまで基本的にはタイヤが付いている。

 

ところがヘリコプターの場合、その場で浮き上がることができるので降着装置(ランディングギア)にタイヤは付いてなくても良い。特に小型ヘリの場合は多くの機体が下の写真のようにスキー板のようなものを履いている形式が多く、このタイプのものはスキッド式と呼ばれる。

スキッドタイプ

その一方、飛行機と同じようにタイヤの付いたランディングギアを装備するヘリコプタ―も多い。今回はそんなヘリコプターの脚部分について解説したい。

 

ランディングギアの役目としては、地上での機体重量を接地面へと分散させる作用や、接地時の衝撃を和らげるという作用などがある。もちろん地上で機体の安定性を保って駐機しておくにもランディングギアは欠かせない。さらに、緊急着陸時のような強い衝撃にも耐えて機体構造を守れるようなものでなくてはいけない。

このように要求される事柄が多いため、開発する会社にとっては悩みどころだろうと思う。

 

スキッド式の場合、2本のスキー板という『』で機体重量を接地面に伝え、なおかつ機体重量や接地時の衝撃はクロスチューブという、機体下部に横向きについているバーのしなりで持つというのがおおまかな設計である。このクロスチューブのしなりで持つというのが重要で、この部分をある程度しなやかに作る必要があり、あまりに大きな荷重がかかると支えきれなくなってしまう。そのため、スキッド式で対応できる機体の大きさには限界があると言われている。

スキッド式のものは空港内を移動するときなどはその場で浮き上がり、低空飛行状態で移動しなくてはいけないのだが、車輪の収納とかタイヤの空気圧とかのめんどくさいことが無いので整備性が良い。反面、機体を牽引車で引っ張る時なんかは画像のように別でホイールをつけなければならず、ちょっと手間がかかる。

 

いっぽう、タイヤの付いているタイプ(ホイール式)はというと機体重量を接地面に伝えるのは車輪の接地部分のみであり、『』で伝えるようなかたちとなる。接地の衝撃や機体荷重は各ギアに取り付けてある緩衝装置(いわゆるサスペンション)が受け持つ形となる。

荷重が狭い部分に集中するので同じ機体重量だとしても接地圧はスキッドタイプに比べて高くなるが、緩衝装置をはじめとする各構成部品を増強すれば大型機の重荷重にも対応ができる。このため、中型機以上になるとホイール式の機体が多い。

 

ホイールタイプ

その他、ホイールタイプの特徴は以下のとおり。

 

・衝撃吸収能力がスキッド式に比べて高く、乗り心地の面で有利となる。また滑走着陸(飛行機と同じように速度がある状態で着陸すること)も容易で、訓練飛行などがやりやすい。スキッド式の機体で滑走着陸をすると滑走路に傷がつくため、そういった訓練ができる場所が限られる。

 

・地上にくっついたまま移動ができることにより、ダウンウォッシュ(ヘリが吹きおろす風)が周囲にもたらす影響が比較的少ない。スキッド式だと浮き上がる必要があるのでダウンウォッシュがとても強く、重量の軽い小型飛行機などは簡単にひっくり返ってしまう。小型機がたくさんいるような飛行場では非常に気を遣う。

 

・機体に収納可能なギアであれば機体の抵抗が少なくなり、高速性と燃費向上に寄与する。これについては以前のブログでも述べているので、そちらもご覧いただけると幸いです。

 

as365.hatenadiary.com

 

・タイヤという『点』で降りるため、石ころの多い場所などはスキッドタイプに比べると降りやすい。

 

・部品点数がかさむので整備作業が増加し、コストもかかる。価格の安さをウリとする小型ヘリにスキッド式が多いのはおそらくコレが理由だと思われる。

 

・スキッド式に比べると運用時に脚回りにかかわるリスクが増える。車輪の出し忘れタイヤのパンクパーキングブレーキの操作など。また、引き込み式の場合、飛行中に非常事態が起きても車輪を出すのにある程度時間がかかるので手順が複雑になるほか、低高度では接地に間に合わない危険もある。こんな理由もあってか、単発のヘリコプターで引き込み式の車輪というのは見たことが無い。

 

・『点』で降りるうえに最低地上高が低い傾向があるため、舗装がなされていないような場所は比較的苦手。また、接地圧が高くなる傾向にあるので柔らかい地面や草むらに降りるのも苦手とする。

空港以外の場所に降りることが多いドクターヘリにスキッド式が多いのは、このへんが理由なんじゃないかと勝手に推測している。

 

主な特徴はこんなところである。後半の方は私の余計な推測がくっついてしまっているがご容赦頂きたい。

結局どちらも一長一短であるし、機種によってはスキッド式とホイール式どちらも選べるようになっているのもある。前述のとおりホイール式にすると速度性能に優れるが、スキッド式にするとタイヤをしまう部分を燃料タンクに替えることが出来る機体もあり、飛行時間が伸びる傾向も。このへんは事業者のニーズ次第というとこだろう。

 

私個人的にはホイールタイプのほうが好きだったりする。空港やヘリポートなどの、他の機体がたくさんいるところでホバリング移動するのは結構気を使うし、移動中でもコレクティブレバー(パイロットが左手で持ってるパワー調整のレバー)から手を放してスイッチ類を操作できるホイールタイプはやはりありがたく感じる。

それは別としても、車輪をしまい込んで流線形になったヘリというのはなんと言ってもかっこよく見えるものなのだ笑。

 

まあ、一番嬉しいのはスキッドに比べて衝撃が伝わりにくく、着陸がヘタなのがばれないということなんだけど・・・。

 

今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました

エアバス H125型エキュレイユ ヘリコプター紹介

小型機離れした超高性能を誇る究極、最新鋭のエキュレイユシリーズ。

 

今回紹介するH125型でぱっと思いつくキャッチフレーズはこれしかない。

このヘリは、このブログで以前紹介したAS350型の最新機種にあたるものである。

 

 

AS350シリーズの中でも極限までハイパワーなエンジンを搭載し、加えてフルオートのエンジンコントロールまで装備したAS350シリーズの最終進化形態とも言うべき機体。ちょっと前まではAS350B3eという名前で呼ばれていた。

見た目はエキュレイユ初期モデルから変わらないコンパクトな機体だが、その内に擁するは離陸出力860軸馬力を発揮するアリエル2Dエンジン。まるでコンパクトカーに3000ccクラスのエンジンを積んでしまったようなシロモノであり、結果的に世界中の単発ヘリコプターの中でも際立った高性能ヘリコプターとなった。そもそも初期のB型が640軸馬力でありながらそれなりに余裕があったのに、そこから200馬力以上もパワーアップしているのだからこいつは凄まじい。

増大したパワーに対応するためか、テイルの付け根部分などは以前のものと比べて補強が入っている。

 

特筆すべきはそのパワーにモノを言わせた高高度性能だろう。他の機体だと性能的にヘロヘロになってしまうような高山においてもしっかりホバリングできる性能を持ち、2005年にはエベレスト山頂に着陸という世界記録を樹立した

このパワーは低高度でももちろん有用で、標高の低い場所なら1トン近くの吊り下げ荷物を運ぶことが出来る。もちろん、乗客満席で燃料満タンなんてのは朝飯前もいいところだ。

 

現在の単発ヘリコプターでこの機体と性能でタメを張れるのはレオナルド社が生産するAW119コアラくらいだろう。(K-maxというバケモノは割愛)

エンジンが単発であるゆえに官公庁では使われていないが、山小屋への物資輸送とか木材搬出などで今日も活躍している。

 



ところで、タービンエンジンを搭載するヘリコプターは多くの場合、エンジン内の圧縮空気を拝借して暖房として利用している。つまり、暖房使用中にはエンジン限界性能が下がることになり、離着陸みたいなパワーを使う場面では暖房をオフにするのがマニュアルで義務付けられていることが大半。ところが、この機体に関してはオフにすることが義務付けられていない。いかにパワーが有り余っているかという証左であろう。

 

そんなこんなで、軽い状態でフルパワー上昇すれば簡単に昇降計の針は振り切れる。この機体のテストフライトではフルパワーで2分間上昇を続けるという科目があるのだが、これがもう本当におっかない笑。パワーを入れた直後からとんでもないスピードで上昇しはじめ、あっという間に天上界までノンストップの急行便である。正直、空荷のコイツが性能的に上昇できなくなるのってどんな高高度なのかまったく想像がつかないほどだ。

 

むしろ、パワーを下げてもなかなか降下してくれないので、操縦面ではむしろこっちのほうが問題だと思っている笑。実際、ヘリポート等に着陸する際には思うように高度が下がってくれず、ちょっと難儀することも。

そうは言ってもやはり圧倒的なパワーの余裕は気持ちの余裕にもつながるのは間違いなく、単発機の中でどれかを使って仕事をしろと言われたら、私なら何の迷いもなくこのヘリにすると思う。それくらい優等生なのだ。なにせ、

低速でもパワーに余裕持ってラクに飛べるし

パワーにモノ言わせたバケモノ級の上昇力もあるし

コンパクトなサイズでヒラヒラと小回りも利かせられるし

速度性能も航続時間も水準以上だし

と、何をするにしても本当良くできたヘリである。

 


最後に思いっきり余談だが、この機体の個人的に好きなポイントはエキゾーストパイプ。写真のように燃焼室のすぐ後ろから先端まできれいな虹色の焼け色が入るため、整備中とかになんとなく見るのが好きだったりする。クルマとかバイクのチタンマフラーが好きな方は共感してくれるやもしれん笑。

 

ヘリコプターの速度2  ヘリコプターのあれこれ

前回のブログでヘリの速度についてお話ししたが、今回は低速度域でのお話である。

 

ヘリコプタ―の最大の利点であり特徴なのが、空中で停止しても落ちないということ。これは飛行機には絶対出来ない動きであり、この特性があるからこそヘリは生き残ってきたと言っても過言ではないはずだ。ところが、この空中で停止するというのもなかなか厄介なハナシなのである。

 

ヘリコプタ―というのもまったくオカシな乗りもので、速度を増してくとどんどん必要なパワーが増えていくのは前回述べた通りだが、反対にまったく進んでいない状態で浮いているのでもそれなりのパワーが必要になるというよくわからない特性がある。

 

これは一般の方にはなかなか理解されづらいかもしれない。実際、クルマとかバイクだとアクセルを踏まずにじっとしている時が最もパワーを使っていない状態になる。というか大抵の乗り物がそうだろう。

じゃあ一体ヘリが一番少ないパワーで飛べるのはどんな時なんだよ!という事になるが、おおむね時速100km~150kmくらいが一番少ないパワーで飛べる。けっこう速い速度ではないだろうか?

 

下のグラフは一定高度を保つことを前提に、対気速度と必要パワーの相関を表したものなのだが、大抵のヘリはこのような不思議な形をしている。グラフの一番左側は、速度ゼロすなわちホバリング状態だ。

このグラフで青線が一番下まで下がったところがすなわち一番必要パワーが少ない速度であり、専門用語でVyと呼ばれる。このVyという速度はヘリの機種によって若干異なり、丸っこい機体だと時速110km程度、流線形の機体だと時速130~150kmくらいの間で定められている。

このVyは必要パワーが最も少ない速度であるとともに、最も燃料消費が少ない速度でもあるので、順番待ちで上空待機するときなんかはよく使ったりする。

 

こういった特性なので、広い場所からヘリコプタ―が離陸するときはパワーをあまり必要としない。なにしろホバリング状態から機体が落ちない程度にパワーを足しながら速度をつけていくだけで必要パワーはどんどん少なくなっていき、余ったパワーが結果的に加速力と上昇力になって機体がふわりと浮き上がっていくからだ。

地上でエンジン吹かして猛加速しながら離陸していく飛行機と大きく違うところと言える。

逆に言えば、ドクターヘリとかがやるホバリング状態のまま垂直に上昇していく離陸方法は、けっこうエンジン的にムリをしていることも少なくない。私もたまにやる機会があるが、パワーに余裕のないヘリとかだとコレがもう冗談抜きでキツイ

 

さらに別の例を挙げると、空気の薄い高山での仕事にパワーのないヘリで出かけた場合、いい速度で飛ぶことは余裕で出来るんだけど空中で停止はできない、といったことも普通に起こる。それほど低速飛行にはパワーが必要なのだ。

なんで速度が無いときにそんなにパワーを食うのかという事についてだが、コレは様々な要因が重なっていて説明が難しい。

 

非常に粗削りでイイカゲンな説明になってしまうが、ホバリングおよび低速状態のヘリというのは自分自身のローターが巻き起こす局所的な下降気流の中にいるようなものだし、自分の真上からしかローターに空気が入ってこないので空力的にとてつもなく不利なのである。

さらに、ヘリが前進速度をつけていくと転移揚力(トランスレーショナル・リフト)という効果が得られるのだが、低速状態ではこの効果が無いという事も大きい。

ヘリコプタ―が停止状態からある程度前進速度をつけていくと、自分の前方からローターに向かってドンドンたくさんの空気が取り込まれるようになってくるのでローターの生み出す揚力がある時点で飛躍的にアップする。

これが転移揚力と呼ばれるもので、乗っていてすぐにそれと分かるくらいのポンッという上昇力を感じることが出来る。

速度(対気速度)が少ない状態ではこの転移揚力は生み出されないため、結局その分までパワーを吹かして機体を浮き上がらせておくしかないのである。

このVyより低速でパワーが必要な領域のことをバックサイド領域と呼び、パワーが必要だわ操縦は難しいわで、できればお近づきになりたくない厄介な領域なのである。

しかし、冒頭でも書いたようにヘリの仕事なんてこの低速領域を使わないことにはオハナシにならないものばかりというのもまた事実であり、このへんもヘリの泣き所だったりする。

 

まあしかし、自分で書いててナンだが本当にヘリコプタ―ってよく分からない乗り物だな・・・。

 

ともあれ、今回もお付き合いいただき、ありがとうございました。